9マスの書き方に、厳格な決まりはありません。基本的には、あなたの使いやすいように自由に書いていただいてかまいません。
とはいえ、いきなり「自由に」と言われると、かえって戸惑ってしまうのも無理のないことです。そこで、まずは基本となるいくつかの「作法」をご紹介しましょう。(ここでは参考例として、前述した大谷翔平選手の「目標達成シート」の内容を引用しながら進めていきます。)
1マスに1フレーズ
1つのマスには、1つの「フレーズ」で書き込みます。
ここでいうフレーズとは、一語から二語程度の、文法を気にしない短い言葉のことです。文字は、自分が読める大きさで書きましょう。マスの大きさには限りがありますから、多くの文字を入れることはできません。
あえて余分な言葉を削ぎ落とし、短いフレーズをひねり出す。この「制約」こそが、あなたの考えを自然に整理してくれるのです。
長い文章を削り、「自分は何を考えているのか」を凝縮した一言に変換することで、思考の輪郭ははっきりしていきます。
×「売上を上げるためには新規顧客を増やす必要がある」
○「新規顧客」
×「朝の時間を有効に使いたい」
○「朝活」
×「ドラフトで8球団から1位指名される」
○「ドラ1 8球団」
×「ストレスを減らして心を安定させたい」
○「ストレス対策」
短く、そして具体的に
言葉は、ただ短いだけでは不十分です。短い言葉に「具体性」というエッセンスを加えることが大切です。
名詞だけで終わらせず、そこに「動き」を添えると、それはそのまま「行動」へと繋がります。
例:
「売上」 → 「売上UP」
「運動」 → 「毎日歩く」
また、同じ意味でも言葉の選び方ひとつで印象は変わります。
・経費削減
・コスト削減
・コストダウン
自分が最もピンとくる、しっくりくる言葉を丁寧に選んでみてください。
数字を入れる
フレーズの中に「数字」を入れるだけで、内容は一気に具体的になります。
・日付を入れる
「痩せる」 → 「7月までに痩せる」
・数値を設定する
「マラソンに出る」 → 「5キロ完走」
・量を決める
「水を飲む」 → 「1日2L」
・期限+数値+行動を組み合わせる
「痩せる」 → 「7月までに3キロ減」
また、行動が見える言葉にすることも重要です。
×「実家に行く」
×「月に2回 実家に行く」
○「月2回 実家」
実現できる言葉にする
あまりに大きすぎる目標は、かえって足を止めてしまいます。「少し頑張れば手が届くこと」を書き込むことで、体は自然と動き出します。
長い文章を短いフレーズに凝縮する作業は、意外と楽しいものです。それは、これからの自分の未来を思い描き、自分自身と深く向き合う時間でもあります。
良いフレーズを思いついた瞬間、不思議ともうそれが実現できたような、晴れやかな気持ちになるはずです。短く、具体的に書く。その瞬間に、あなたの思考は確かな「行動」へと変わっていくのです。
シソーラスで言葉を広げる
短いフレーズに、自らの思いを込める。それは、一文字ずつ丁寧に言葉を紡ぎ出す作業です。納得のいくフレーズが生まれたとき、不思議とその行動はすでに達成されたかのような、前向きな気持ちが湧いてきます。言葉には、それほど強いパワーが宿っているのです。
ただ、いざフレーズを書き込もうとすると、意外な壁にぶつかることがあります。漢字が思い出せないのです。普段、パソコンやスマホの変換機能に頼っているわたしたちは、漢字を「イメージ」として覚えていても、手書きしようとすると細部が抜け落ちてしまいがちです。
そんなとき、迷わずスマホで検索してください。右手にペンを持ち、左手にスマホ。そんな光景をよく見かけますが、それでよいのです。今の時代、スマホを一切使わずに考えるという選択は、あまり現実的ではありません。
さらに、スマホにはもう一つ便利な活用法があります。「シソーラス」の利用です。
シソーラスとは、一般に「類語辞典」と呼ばれるもので、似た意味の言葉や、関連する言葉を体系的に集めた辞書のことです。
たとえば「うれしい」という言葉一つをとっても、「楽しい」「喜ばしい」「幸せ」「心が弾む」「感動する」といった、多彩な表現が存在します。それらを一堂に示してくれるシソーラスは、フレーズを練り上げる際の心強い味方となります。実は、わたし自身もしばしば活用している、おすすめの道具です。
AIで埋めた9マスでいいのか
そして、これからの時代、スマホといえばAI(人工知能)の存在を無視することはできません。AIに指示を出せば、それこそ数秒のうちに81すべてのマスが完璧な言葉で埋め尽くされることでしょう。
しかし、少し立ち止まって考えてみてください。そのようにして機械が自動生成した81マスの計画を、あなたは果たして自分事として捉え、本気で実行に移せるでしょうか。
誰にでも代わりが務まる効率化は、AIに任せてもよいかもしれません。しかし、少なくとも「自分自身のこれからのこと」を考えるプロセスだけは、どうか自分の手で行ってほしい。わたしは切にそう願っています。
シソーラスやAIを、自らの思考を広げるための「道具」として賢く使うのは大いに結構です。けれど、最後に言葉を選び、マスの中に自分の手で書き込むのは、他ならぬあなた自身でなければなりません。その一文字一文字の重みが、あなたを明日への行動へと突き動かす原動力になるのです。
一度にすべてのマスを埋めなくてOK
9マスを前にして、最初からすべてのマスを埋め尽くそうと意気込む必要はありません。空いているマスが残っていても、全くかまわないのです。
書いている途中でペンを止めても大丈夫です。むしろ、あえて空白を残しておくことで、不思議な現象が起こり始めます。道を歩いているとき、お風呂に浸かっているとき、あるいはトイレに入っているときなど、ふとした瞬間に頭の中にあの「9マス」がふわりと浮かび上がることがあります。すると、空いていたはずのマスに、欲しかったアイデアがすっと降りてくることがあるのです。
空白があることは、決して悪いことではありません。それは、あなたの脳が答えを探し続けている証拠でもあるからです。
……そうは言っても、最後の1マスが埋まらないときは、なかなか気になるものですが。
字はきたなくてOK
9マスに書き込む字は、決して上手である必要はありません。人に見せるためのものではないのですから、自分自身で読めさえすれば、それで十分です。
とはいえ、わたし自身、自分の書いた字が後から読めなくなってしまい、困ったことが何度かあります。不思議なもので、思い出せなくなったフレーズほど「ものすごく良いアイデアだったはずだ」と思えてしまい、悔しい思いをするものです。ですから、上手でなくとも、丁寧でなくともかまいません。「後から自分が判別できる程度」に書き留めておいてください。
頭の中にあるぼんやりとした輪郭を、言葉にする。そして、それを文字として紙に定着させる。思いを言語化したその瞬間から、「自分の理想に近づく行動」はすでに始まっています。
頭の中に留まっているうちは、それはまだ「妄想」にすぎません。しかし、頭の中にあるものを紙に書き出したとき、それは「理想」へと進化します。 「書く」という行為は、夢を叶え、目標を達成するための、最も確実で尊い第一歩なのです