4B三上+Kとは何か
フレドリック・ヘレーン著の『スウェーデン式アイデア・ブック』は、アイデアを生み出す30の短編メソッドを紹介した、おしゃれな正方形の本です。22番目のメソッドに「創造性の4B(頭が冴える場所)」があります。「4B」とは、お酒を呑むバー(Bars)、お風呂のバスルーム(Bathrooms)、乗り物のバス(Buses)、ベッド(Beds)のことです。
「三上(さんじょう)」は、今から約千年前、中国・北宋時代の思想家、欧陽脩(おうようしゅう)が挙げた、ひらめきが生まれる場所に由来します。「鞍上・枕上・厠上(あんじょう・ちんじょう・しじょう)」の三つです。鞍上は馬の上、つまり移動中。枕上はベッドの中。厠上はトイレです。
洋の東西を問わず、人は昔から、同じような場所でアイデアを得てきたのかもしれません。だから、トイレでスマホを見るのは、少しもったいない。寝る前にスマホの画面を眺め続けるのも、もったいない。移動中にずっとスマホを見ているのも、惜しい気がします。なぜなら、よいアイデアは、一人でいるときに訪れるからです。
さらに、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏は、「一日の中でいちばんセクシーな時間だ」と語り、日常の習慣として毎晩、必ず自分で食器を洗うことで知られています。それは、頭を空っぽにする時間であり、思考を整理する時間であり、静かに集中する時間でもあります。
マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏もまた、「夕食後に皿洗いをする習慣がある」と語っています。皿洗いは、単純な作業の中で考えが整理され、一日の切り替えとなり、家族との時間の一部にもなるといいます。
余計なことを考えずに、ただ手を動かす。そんな時間にこそ、アイデアはやってきます。キッチンも間違いなくアイデアが浮かぶ場所の一つです。そこで、キッチン(Kitchen)の「K」を加え、いいアイデアが浮かぶ場所を「4B三上+K」と呼ぶことにしました。
アイデアは突然やってくる
アイデアは、こうした日常の「ふとした瞬間」に突然やってきます。アルキメデスは、お風呂の中で浮力の原理を発見しました。アインシュタインは、ひげ剃りの最中によくアイデアが浮かんだそうです。作者のJ・K・ローリングは、「ハリー・ポッターのアイデアは、マンチェスターからロンドンへ向かう列車の中で浮かびました。わたしはペンを持っていなかったので、ただ考え続けるしかありませんでした」と言っています。やはりアイデアは移動中に突然やってきたようです。宇多田ヒカルさんは「歩いているときに曲が浮かんでくる」と。『超整理法』の野口悠紀雄氏は「仕事を続けている限り、どこでもアイデアは生まれる」と述べています。
アイデアの逃げ足はとても速い
アイデアは、とんでもないときに、脈絡もなく現れます。しかも、メモを取りにくい場所で現れます。そして、浮かんだアイデアは、すぐに消えます。アイデアの逃げ足は、とても速いのです。わたしも、家から駅まで歩いている途中に、よくアイデアが浮かびます。しかし、「駅に着いたら書こう」と思った瞬間に忘れてしまいます。「覚えているだろう」は大きな間違いです。覚えているのは、「何かいいことを思いついた」という記憶だけで、肝心のアイデアは消えてしまっています。人間は、自分が思っている以上に、さまざまなことを考えているようです。ただ、それを捉えきれずに、消してしまっています。
アイデアの神様には前髪しかなく、後ろ髪がありません。だから、目の前に現れたときにすぐ捕まえなければ、通り過ぎたあとに追いかけても、もう捕まえることはできないと言います。
ノートに書いて捕まえる
J・K・ローリングは、そのアイデアを逃さずつかまえたことで、世界的ベストセラーを生み出しました。アイデアを捕まえる方法は人それぞれです。今はスマホがありますから、メモアプリに書いたり、音声でボイスメモを残したりする方法もあります。普通のメモであれば、スマホの方が手軽で簡単かもしれません。けれど、大事なアイデアを捕まえるには、ノートに書くことをわたしはおすすめします。ペンで書く紙は、紙片のようなものではなく、きちんと綴じられたノートがもっとも確実です。同じ紙でも、付箋や広告の裏紙、レシートの裏、割り箸の袋の裏、バーであればコースターや紙ナプキンなど、さまざまなものがあります。しかし、このような紙片は失くなりやすく、失くさないよう新たな注意が必要になります。
最近は、スマホにボイスメモを残し、それをAIで文字起こしして保存する方法もあります。ただ、ボイスメモは手軽に残せる分、アイデア以外の内容も多く含まれてしまいます。それを後から聴き返すのも一苦労です。また、文字起こしされた文章を見ても、自分の書いた文字ではないため、読むのに時間がかかります。それに、文字以外の情報、たとえば、そのときの自分のコンディションのようなものは、手書きの文字には宿りますが、整ったデジタルの文字からは感じ取りにくいものです。その点、自分で書いたノートは、後から見返しても一瞬で捕まえたアイデアを思い出すことができます。ノートに手書きすることが、やはりもっとも確実な方法です。
もう一つのB、床屋
アイデアというものは、とても意地悪です。もう一つ「B」がありました。Barber(床屋)です。髪を触られると、とても気持ちがいい。規則正しいハサミの音も、心地よいリズムを刻み、リラックスしていきます。こういうときに、ふっとアイデアがやってきます。「えぇー、今なの?」と思います。理髪店ではケープを羽織り、両手がふさがっています。メモを取ることができません。スマホもダメ。散髪が終わるまで、そのアイデアを覚えていられるでしょうか。「逃がした魚は大きい」と言いますが、逃してしまったアイデアも、きっと良いものだったのだと、くやしくなります。
何もないところに、アイデアは現れない
野口悠紀雄氏は、こうも述べています。「歩いているときこそ、創造的な活動をしている。だから、歩く前に問題を頭の中に入れておくことが大切である。机の上では、良いアイデアは浮かばない。体を動かすことで、頭の働きが活発になる」。何もないところに、アイデアは現れません。問題を考えているときにこそ、現れるのです。だから、あらかじめ問題を頭の中に入れておくことが、アイデアを思いつくコツのようです。
新しいアイデア、気づき、発見、ひらめきが欲しいときは、4B三上+Kに自分から身を置けばいいのです。たとえば、息抜きに散歩をすることは、とても効果的です。そのときは、必ずノートとペンを持って行ってください。何度も言うようですが、アイデアの逃げ足はとても速いです。「帰ってから書こう」と思った瞬間に、もう逃げられています。後から思い出すことはできません。そんな経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
歩いているときにアイデアが浮かぶことを知っている人は、考えに行き詰まったときや、新しい発想が欲しいときに散歩をします。アイデアの達人は、自分なりの散歩コースをいくつか持っています。そのコースには、一人になれる喫茶店やバーがあったりするでしょう。哲学の道や、学校のまわりにこうした小道が多いのも、先人たちの智恵なのかもしれません。ふと現れたアイデアをすぐにキャッチするために、わたしはいつも胸ポケットに青いペンとM9notesのポケットサイズを入れています。

