[飯箸泰宏先生の、M9notesと知能のいい話] 第3話:M9notesの知能学

図5 ヒトの概念の構成モデル(by 飯箸)

一般社団法人協創型情報空間研究所
事務局長 飯箸泰宏

まず、人は概念をフラットに対等なものとしてネットワークで結びつける傾向があります。それとは別に具体的概念から抽象的概念を導き出し、その終章概念からさらに高度な中小概念を創り上げるという幾層にも織りなす概念の階層構造も形成します。

抽象的概念―具体的概念という階層構造ばかりではなく、目的とその手段という階層構造も形成されます。完成品とその部材という階層構造も作ることができます。概念の階層構造はピラミッドのように頂点から裾野へと広がります。逆にたどれば、裾野から積み上げて高いいただきが作られているとみることもできます。

図5.ヒトの概念の構成モデル(by 飯箸)
図5.ヒトの概念の構成モデル(by 飯箸)

このピラミッド型の階層構造とネットワークは両方があってヒトらしい柔軟で鋭い思索が進んでゆく(図5参照)のですが、ピラミッド型の階層構造のほうが矛盾や不整合やアンバランスを嫌う面倒な性質を持っています。逆にネットワーク型の知識構造は緩やかで柔軟性に富むので、その形の概念の連結網は比較的早く創り上げられるのに、ピラミッド型の階層構造の構成が遅れて、計画策定や概念整理が滞ることが良く起こります。

おそらく人の知の構成においては、平らなネットワークを基盤にしてピラミッド型の階層構造が構成されるに違いありませんが、その過程で、ヒトは悶々と悩み、階層化に悩むのです。場合によっては階層構造の構成に失敗して挫折してしまうこともあるように思います。

ヒトが直面するこのような状況にこそ、M9notesの出番があります。

まず、トップダウンに対応した知の構成活動を見て見ましょう。トップと思われる言葉(単語類、1語または2語連結程度)の候補を9つのマス目の真ん中に書いてみることから始めます。そのテーマを表す概念に関係する言葉(単語類、1語または2語連結程度、言葉は概念に結びついています)をその周囲に書いていきます。

逆方向のボトムアップに対応した場合の知の構成活動は次のようになります。当面これが中心と断定できるものはないけれど、関連のありそうな概念がもやもやしているとき、もやもやしている概念を表す言葉(単語類、1語または2語連結程度)を9個のマス目の周囲8個に埋めていきます。そんなときは、もやもやする言葉が一つではないでしょうから、思いつくものはどんどん書いていきます。2個3個・・・とマス目が埋まっていくと、おぼろげながら中心になりそうな言葉が浮かびあがったり、ひと眠りしたあと後や数日後に「あっ、これだ」と思いついたりすることがあります。

周辺の言葉と思っていたものが実はド真ん中の言葉だと気づいたりもします。実はよく寝ることはヒトを創造的にするのですが、その話題は別の機会にいたします。いったん中心になる言葉が定まると周りの言葉群を見直したり、新しいページに改めて書いたりすることになります。M9notesはそのあたりは自由に使うことができます。

何をどんな順に書いてもいいが、ひそかに前方に向けた戦略は右に、後方支援に関係するものは左にしようなどと心の中でつぶやくともっとおもしろくなりますが、あまりこだわると行き詰りますので、こだわらない方がいいかもしれません。M9notesの発明者である中島正雄氏は、そのほかにもいろいろな順序や配置法考案していますので、彼のセミナーや製品についてくる解説文を見ると参考になります。

最初の9つのマス目の中心のマス目とその周囲のマス目の1個から8個のマス目のいくつかに関連項目が書けたら、じっとそれを眺めていると面白いことに、関連項目の周囲にまた何か関連するものがあることに気づくようになっています(気づくことが多いのです)。

そのようなときには、関連項目の中の一つを別のページの9個のマス目の真ん中に再び書いてみるとその周囲にそれぞれの関連項目が書けることになります。「最初の9つのマス目の関連項目の周りにも何か関連する項目が浮かんでくる→それをまた別の9つのマス目の中央に書いてその周囲に関連項目を書くことができる」というわけです。

元の9つのマス目の周囲8つのマス目から生まれた新しい9つのマス目を2階層目というと、2階層目の9つのマス目の周囲8マス目のどこかに書かれた関連項目の一つを取り出して、新しい9つのマス目の中央に書けば、3階層目が出来上がります。階層はどこまでも広がっていきます。最初の着想から多段階の階層構造が出来上がっていきます。

図6.中島正雄氏が書いたM9notesの応用例
図6.中島正雄氏が書いたM9notesの応用例

この図6は、よく見ると図5の右半分に書かれたツリー型の階層構造を上から覗いたような形になっていることがわかりますね。みごとな一致です。

関連の深いものを探すという人間にとって比較的容易な知的操作であるネットワーク的な手法を使って、少し面倒であきらめやすい階層構造型の知識構造が比較的容易に出来上がっているのです。

ヒトが大きな構想をめぐらしたり、複雑怪奇な概念群を整理してすっきりさせる際にぶつかる困難をやすやすと乗り越えさせてくれる道具にM9notesはなっているのです。

一般社団法人協創型情報空間研究所事務局長

飯箸 泰宏

いいはし やすひろ

1946年(昭和21)生まれ 。現役のシステム系講師。都立足立高校でビートたけしと同級。東京大学理学部化学科卒。同情報科学科研究生修了。1981年に株式会社サイエンスハウスを起業し、同時に教壇にも立つようになった。以来会社経営では37年、慶応大学、法政大学、明治大学等のシステム系教員としては38年の経歴を持つ。教え子は8000人を超える。精神障がい者の支援ボランティアにも従事してきた。専門は情報科学で、人工知能、移動体制御などでの実績がある。最近は、脳科学、心理学、哲学を束ねる「知能学」の創出を悲願にしている。

[ ブログ ]
鐘の声ブログ